FILM DIARY October 2023

Text by 二井 梓緒

暇さえあれば映画が見たいスプーン4年生による、
映画評論ブログ#9です。

山形ドキュメンタリー映画祭日記

4年ぶりに開催(コロナ中はオンライン)された山形ドキュメンタリー映画祭に行ってきたので、そこで見たいくつかの作品の紹介と思ったことを日記形式で書きます。
山形ドキュメンタリー映画祭を簡単に説明すると、1989年に開催がスタートしたアジアでは最大のドキュメンタリー映画祭です。多い年には期間中に200本以上の、社会派作品からパーソナルな作品まで幅広い作品が上映されます。今回の開催はコロナぶりということもあり、会場は常に大賑わいで活気に溢れ、何より思ったのは映画を見にこんなにも多くの人が集まる空間というのはやっぱり尊いものだということです。

10/8
▼『列車が消えた日』(中国 / シンガポール)
列車乗務員の仕事を辞め、僧侶になると決めた男が列車に乗っている。インサートでのナレーションでは、「物や人は人々に忘れられた瞬間に本当になくなる / だから誰かがものやひとに対して語り継がなくてはいけない」的なことを言っていて宮本常一の『忘れられた日本人』を思い出す。ラストがおそらくジョナス・メカスのようなことをしたいんだろうと思うが、ちょっと強い私利私欲を感じてしまった。その後ごはんを食べながら、そもそもドキュメンタリーの形態がフィルムとデジタルでは全く違うものになっているよねという話をし、地元の人からお勧めされる日本酒がどれも安価なのにすごく美味しくてまさに上機嫌(上喜元 : 山形の地酒)だった。あと、夜中からしかオープンしない中華屋の水餃子がびっくりするくらい美味しかった。
寝る前にイスラエル攻撃の記事を改めて読み、「地球や宇宙のことを知った利口な人間が、どうして地上で、まだ戦争をして、殺し合いなどをするのだろう。そんなばかげたことをなぜやめさせることができないのか。」という新幹線の移動中に読んだ一説を思い出す。

10/9
眠くて昼過ぎにようやく外へ出て山形牛を食べた。
▼『ターミナル』(アルゼンチン)
グスタボ・フォンタンというアルゼンチンの監督がとても好きで、今回の映画祭はこの作品を見るために来た。フォンタンの一番好きな作品は『樹』(2006)だが、その次によかったかもしれないとても好きな作品だった。フォンタンが多くの人間だったり、群衆を撮るイメージがあまりなかったのだが、本作はアルゼンチンのコルドバ州にあるバスターミナルの中で行き交う労働者や見送る人、もしくはどこかへ向かうバスの到着までの合間で近くの(おそらくそのターミナル内にあるであろう)ゲームセンターで遊ぶ人にフォーカスする。とにかく映像が綺麗で、眩い光に感動した(し、それの対象が人であっても植物であっても本当に切り取るのが上手い人なんだなということに深く感動した)。
自分の好きなドキュメンタリーはあるがままが映されているもの(編集でどうしても演出されていることは逃れられないが)であって、例えば監督の意志や意図があまりに強く画面に滲んでいるものは大して見たくないと思う。自分が映画で見たいものは極端にいうとリュミエール兄弟が撮った(というよりも撮ってしまった / 映ってしまった)海の水面や木々の揺れる瞬間といったものである。映像は時にカメラを回す人が撮りたいと思っていないものも映ることが前提にある。過度な演出が入ったドキュメンタリーはあまり好きではないしそういうものよりも、あるがままの映ってしまった事象を受け止め編集することの方がよっぽど難しいと自分は思っている。
その後数本みて知人のご実家で芋煮を食べる。前回来たときよりも山形名物をたくさん食べることができてうれしい。

10/10
▼『負け戦でも』(ミャンマー)
2021年のクーデター後からミャンマーの若者の多くは抵抗活動をしたが、逮捕や拘束される人々がかなり多く、自由を奪われた状況が今も続いている。そんな若者たちの現在の日常を切り取った作品で、彼らは自室の小さい窓から外を眺め、絵を描き、楽器を弾いていた。監督は匿名でこの作品を応募したという。その後に見た『鳥が飛び立つとき』も同じくミャンマーの若者たちを切り取った作品で、こちらも監督は匿名。映画祭ではその土地の情勢を踏まえ、匿名で出品する人が結構多い。それでも映像に残す(残したい)意義というのを度々考えさせられる。
その後、四年前に山形で紹介してもらった知り合いと合流して冷麺を食べる(四年前会って以降連絡先も別に交換していなかったのだが、なんとその三年後に『PERFECT DAYS』のスタッフとして再会するという!)。

▼『何も知らない夜』(インド / フランス)
インドにある映画学校へ通う女学生の恋人への手紙が発見されるところから映画は始まる。手紙が朗読され、その中ではインドのカースト制(それによって恋人と破局する)、実際に起こったとされる映画学校の学生たちによる、新任学長への反発、そして政府への抗議運動の様子が流れる。映画はモノクロで映され、学生たちが踊るシーンがとても美しい。しかし、実際に警察が学生寮に入って学生たちを拘束していく様子が映される防犯カメラの映像も同じトーンで流される。
夜は焼き鳥を食べたり、山形市でいちばん美味しいらしい麻婆豆腐を食べた。今年はなんだか上映される会場数が減っているなと思ったが、そもそも日数も上映本数も少なかったらしい。

10/11
朝に47年ぶりにネガフィルムが発掘されたという、山形の肘折温泉で撮影された映画を見た。4年前に来たときにせっせと毎朝通っていた喫茶店に帰りがけに行けてうれしかった。今年は合計10本ほど。来るまですっかり忘れていたけれど、ドキュメンタリー映画祭とは言ってもそれぞれの考えるドキュメンタリーへの方式があって自分の思うドキュメンタリーとは全く違った作品も多くあり(それが当たり前なのだけど)、やっぱり新鮮で面白かった。ただ、4年前に比較して思ったのはより内容や主題がパーソナルな内向きの作品が多く目立つように感じたということだった。これはコロナも関係しているだろうし、それ以前に誰でも簡単に映像が撮れる時代だからだとも思う。とにかく充実した4日間だった。また再来年!




⼤学院ではアッバス・キアロスタミの研究をしていました。たまに批評誌サイトに寄稿したりしています。 ⾒た映画のなかから考えたことなどをこれから少しずつ書いていこうと思います。