FILM DIARY October 2021

Text by 二井 梓緒

暇さえあれば映画が見たいスプーン二年生による、
映画評論ブログ#4です。
よろしければお付き合いください。
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『もち』(2020)

『たまたま』という蒼井優主演の映画がある。初めて観たときから大好きで、以来毎年少なくとも1回は見返しているが、その映画の監督が、2作目となる作品を昨年完成させた。上映にはいけず、レンタルになってからようやく見ることができたが『もち』もたいへん素晴らしい作品だった。

岩手のさむいさむいまち、始まりはおばあちゃんのお葬式で、なぜかおじいちゃんはこんなにも寒いのに!外でもちをつきだす。そしてそれを手伝う孫娘。中学生である孫は、今年で廃校となる中学校に通っている。さびしさと、家族との対話、たまに恋路、彼女の生活そのものが映し出されるモキュメンタリーだ。
監督の小松真弓さんは、CMディレクターとして活躍している。『たまたま』を初めて見たとき自分は大学院に行って映画の研究をするとは、卒業後映像制作の職につくとは思っていなかったので、監督などは大して注目せずに見ていた。その後、映画を習慣のように見るようになってからも監督のことは特に考えず、自分が一年に何回かは見る映画リストに入っていた。以前、編集で訪れたスタジオに『もち』のポスターが貼ってあり、そこでようやく気付いた。本作自体も大変見応えがあるのだが、公開時にアップされた小松さんのインタビューがどれもとても面白い。主人公との出会い、街の消えかけそうな文化や伝統、コロナ禍によって希薄になった人とのつながりを見直すこと。どれもがとても丁寧に描かれる。その土地に住んでいなくても私たちは知らない街のことを少しだけ知って、なんだかあたたかい気持ちになる。


「映画」と「CM」ではそもそも制作体制が大きく違う。同じ映像という媒体であっても映画好きにとってCMは全く別物の「広告」として捉えられ、大衆の消費物として追いやられがちである。映画も全くもってそうであるはずが。
CMであっても映像として何かを伝えるために作られている。たとえタイトなスケジュールで作られたとしても、たとえ何かを売り出すための映像であっても、いい作品はたくさんあるし、
『もち』のようにCMをつくり出すひとがつくる映画が繊細で美しいこともある。CM制作でもそういった誰かの記憶に残る作品に関わっていきたいし、より良いものを作るにはどうしたら良いのかを日々模索して行けたら良いと思う。



⼤学院ではアッバス・キアロスタミの研究をしていました。たまに批評誌サイトに寄稿したりしています。 ⾒た映画のなかから考えたことなどをこれから少しずつ書いていこうと思います。

⼆井