Spoon.対談
Spoon.対談
クリエイターが自由に泳げるプールをつくる

19歳でカロリーメイト『部活メイト』の広告クリエイティブに起用され、数々の雑誌や広告、写真集で活躍する写真家の石田真澄さん。ポカリスエットCM『青が舞う』篇のイントロダクションムービー『杏慈』『椿』をともにつくったSpoon小林祐介プロデューサーと、対談をしていただきました。石田さん初のムービー撮影にあたってどんな協働があったのか。CMのコンテンツをつくるとは、どういうことなのか?

石田真澄初めてのムービー撮影 プロデューサーとしてしたかったことは

おふたりのつくった『杏慈』『椿』撮影はいかがでしたか。

小林

クリエイティブディレクターの正親篤さんが、ムービーの撮影を石田さんにお願いしたところからのご縁です。それで一緒にメルボルンへ行って。 ところがぼくは、本編『青が舞う』の方でバタバタしていて、2人のヒロインにベタ付きしている石田さんのフォローをあまりできなかったんです。 石田さんは、ムービーの撮影はほとんど初めてだったんですよね?

石田

はい、映像の仕事はしたことがなかったんです。ただ、正親さんとはポカリスエットのスチール撮影でご一緒していました。Spoonさんは映像チームだったので、今回初めて一緒にお仕事したんですよね。

小林

だから、機材の不安とかもありましたもんね。全面的にフォローしたい思いだったのですが、ロケ現場では全然できずで……

石田

でも、一番最初の打ち合わせの時に小林さんと二井さん(当時PM)が「全部サポートします」「なんでも言ってください」と真摯に伝えてくださったので、すごく安心できました。いつものスチールでも緊張するけれど、映像となれば使ったことのない機材で撮影するんだろうなと心配していたから、おふたりの言葉が本当に大きかった。二井さんは編集の時もずっとそばで話を聞いてくださったので、安心して映像の取捨選択ができました。

小林

それならよかったですけど……僕は反対に、石田さんに教えてもらったと感じているんです。これからどう撮っていくかという話をしたときに、石田さんは「ヒロインの目線に立つ」という大きな方針を定めてくれました。それは、とても石田さんらしい言葉だなと感じた。

石田

動画の技術がない私が頼まれたのはなぜなんだろうと、逆算したんです。正親さんがこれまでの私のスチールを撮っている様子を見て、それを動画に活かそうと思ったということですよね。だから自分ができることをするしかない。そのなかで出てきたのが、「ヒロインの目線に立つ」でした。

小林

僕もそのとき、それが正解だと思いました。石田さんに入ってもらう意味、意義はそこだろうと。それをサポートしていきたいという思いでした。

広告としてのコンテンツをつくるということ

小林

ただ、どうしても反省していることがあるんです。石田さんは、このカットがいいと思ったらそこを大事に長回ししていた。石田さんが切り取る、情緒のある一枚絵を活かす編集を提案したいと思っていたのに、できなかったことが……

石田

そんなそんな。日本で杏慈ちゃんと椿ちゃんが初めて出会うところから、打合せやレッスン、本番、帰国後まで、2カ月くらいずっと撮っていたんですよね。それをどう編集するかと話し合う機会が何回かありました。その時点で撮影はまだ続いていたので、そこからまた軌道修正したり、「こういう素材がほしいね」と話し合ったり。 私がこの仕事までに動画を撮っていれば、小林さんは私の撮り方のクセがわかって、「編集ではこれを活かしてこうしよう」という組み方ができたんだと思うんです……なんか反省会みたいになっちゃいますね。

(笑)

石田

そういう事前情報がない状態で撮ったので、撮りながら自分のクセがわかってきたんです。小林さんに「こういう部分を撮るよね」「石田さんわざとこうやってるの」と聞かれることで初めて、自分の撮り方を知りました。 1日で撮影が終わるような仕事なら全然気づけないようなことに、ドキュメンタリーのように長期間撮り続けていたから気づいたんですよね。

小林

ドキュメンタリーっておもしろいですよね。

石田

はい、かなりおもしろかったです。

小林

今回は広告で、4分弱のコンテンツにして人に届けなきゃいけなかった。だからある種の演出要素、見せ方をつくる作業をする必要があったんですよね。でも石田さんが撮ってくれた映像は、至極ドキュメンタリーとして石田さんらしい捉え方だと感じました。あの日あの時の二人の記録映像というか、その場で起きていることをカメラという視点で、定点に近いイメージで押さえていた。今回は4分という制約があったからですが、記録というドキュメンタリーの作り方もありますし、石田さんの撮影していた映像にはすごく感じる部分があって、撮れている素材は本当にヤバいですし、見せれるならいろんな方にお見せしたいくらいです(笑)。

4分以上観たい、もっと観せてと感じました。

被写体との距離のつくりかた

石田

ヒロインのふたりはそれぞれまったく違うタイプの子でした。心を開くタイミングも違った。この年齢の子と触れ合う機会はほとんどなかったので、そういう様子がとても興味深くて、楽しくて。ふたりはすぐに仲良くなるんだけど、大人たちに対してはやっぱり壁があるんですよね。そこからの近づき方、オープンになっていく様子を見ているのが楽しかったです。

小林

距離の詰め方、石田さんすごく上手でしたね。さすがだなと思いました。

石田

その訓練みたいになってました。

(笑)

石田

普段のスチールだと数時間しか一緒にいる時間がないんですよ。それを長期間でじっくりやっていくというのは初めてでした。でも難しいことでした。本人たちの言っていることと思っていることの違いが、やっぱりわからなくて。 最終的には使わなかったんですけど、ふたりの音声も録っていたんです。仕事をしているふたりだから、言葉を引き出そうとすれば「こういうこと言ってほしいんだろうな」と読んで言ってくれちゃう。でも、それはどうなんだろう? そこへの抵抗感で、うまく聞けない。でも聞かないとキーになるような言葉を抜き出すことができない。このやり取りをナチュラルにやっているものって、本当に技術的だと改めて思いました。

小林

作為的にやろうと思えばできちゃうところですもんね。そこが石田さんの初志貫徹だなと思いました。彼女たちの目線に立って、そこから見える景色をどう捉えるか。最初におっしゃっていたことがわかる映像になっていました。

石田

私、定点で撮ってたんですよね。たとえば手元だけをずっと撮っていて、何か起これば使う。それは無意識にやっていたことで、あとでこういう撮り方のくせがあると気づいたんです。考えてみると、スチール撮影の時も被写体にあまり指示をしません。してほしい動作の最初のところだけ言って、そこからどうなっていくかを撮る。動画もまったく同じで、そこで何かが動くことを想像しながら撮っていました。これを活かせる尺だったり、撮り方があるんだろうなと学習しました。

このチームだから、できる

石田さんはもともと、映像を撮りたいという気持ちがあって、それを声に出していたりしたんですか?

石田

スチールでもやれていないことがたくさんあるし、まだタイミングではないと考えていました。だから外に向かって「映像をやりたい」と話したことはありません。でも、正親さんから是非と話を聞いたときに、ヒロインと同じ目線に立って撮ってほしいということだなと明確にわかりました。 それにポカリのチームだったらがんばれる、絶対にいいものができると思ったんです。 だから、自分にできることあればという気持ちで参加しました。また次も映像に挑戦したい、とは言えないですね。このチームだったからできたことであって、また全然違うクライアントと制作チームででできるかというと……。私にはその技術がまだないから。

小林

そんなことないと思いますけど。

信頼関係がすごい!

石田

ここで自由に泳いでくださいとプールを用意していただいたような感じです。だから階段をのぼったという感覚もない。ここから次に行けるかは自分の努力次第です。この仕事に関して雑誌の取材を受けたときも、私の立場で言えることが何もないと思っていました。

小林

石田さんにしか撮れない画が絶対にあると思うんです。スチールとムービーで物理的には違うものですけど、感性や感覚で活かせる部分はある。だからまたぜひやってほしいですよ。

広告が好き 映像をつくるのが好き

お二方がこの世界に入ってきたいきさつを教えてください。

石田

中高生のころから雑誌や広告を見るのがすごく好きだったんです。そして写真を撮るのも好きだった。作家の写真よりも、商業の写真の方が知っているものがたくさんありました。できれば写真家になりたいけど, まあ無理だろうと大学に行って。将来的には広告会社に勤めるか、雑誌編集者になろうと思っていたんですよね。でも大学生の時に写真展を開いてから、「写真家になる道もあるのかも」と考えるようになりました。さらに写真展を開いたり、ファッション誌に携わったりしはじめて。 

アート系ではなく商業の写真が好きだったのはなぜなのでしょう。

石田

広告や雑誌は街中で目に入る。写真の作品集はある意味閉ざされたものですが、外に向けたもののなかの“いい写真”を見るのが好きなんです。あとは、写真に言葉がのっているのが好きなんですよね。私の写真でも、撮ったあと文字がレイアウトされたPDFを見るのが好きで。文字がのることに抵抗のある写真家もいるけれど、私は「この写真を選んでこういう言葉をのせるんだ」という過程がすごく好き。そのフィックスされた状態が、雑誌も広告も好きなのかもしれません。 小林さんのきっかけはなんだったんですか。

小林

僕の場合は、本当に大した経緯じゃないんですよ。当時は高校まで野球をやって、普通に私大に入って、教員を目指していました。今思えば、なぜ美大に行かなかったのか!という後悔があります。(笑)

石田

そうだったんですね。

小林

教職の免許をとるためにたくさん授業とっていましたね。学科がメディア関連を学ぶ広報学科だったので、イラストレーターやフォトショップの授業がたくさんあって。新聞論とか映画論、編集者やエンタメ業界に関する授業もありました。その流れで3年生の時にフリーペーパー制作サークルに入ったんですよ。Nikonのカメラを買って、フリーペーパーのための写真を撮るのが楽しくなって。学園祭用につくったサークル紹介の映像制作とか、卒業生を送り出すムービーをつくったりね。それに卒業生がいたく感動してくれたんですよ。そんなきっかけで、映像関連の仕事に進みたいなと思うようになり、MVのディレクターを目指すように。 でも、教員免許は親から取れと言われていたので教育実習に行ったんですよ。そうしたら、実習期間中に制作会社の面接が全部かぶってしまったんです。いろいろ受けていたなかで、Spoonだけが一次面接はパスでいいよと言ってくれて。

石田

おお~。ディレクターになりたかったんですね。

小林

そう。スプーンは、プロデューサーカンパニーということは面接当初から言われてわかってたんですけど、プロデューサーという職種を知れば知るほど魅力を感じたし、業界のことを勉強できる利点もあったので。とりあえず入ってしまえと(笑)。こういうバカがいるんです。 この会社から独立して、ディレクターとして活躍している人もたくさんいますよ。そういう道もあったけれど、僕は入社3年目くらいでプロデューサーとして食べていこうと思ったんですよね。たくさんのディレクターを見ているうち、自分はそこにはいけない、違う山のてっぺんを目指そうと。そのときはまだPM(プロダクション・マネージャー)でしたけど。 なかにはPMの仕事が好きで、プロデューサーはなりたくないという人もいます。僕はその真逆で、1年でも早くなりたかった。

プロデューサーの肩書があれば アイデアを形にできる

小林さんにとってプロデューサーの魅力って何ですか。

小林

広告のプロデュースは、広告会社やディレクターの方からお仕事の話をいただいて、広告主が求めている的をちゃんと射るために、クオリティや予算やスケジュールを管理し、みんなが幸せになるよう進行していくのが面白みです。ただ、プロデューサー本来の醍醐味は、新しい企画をつくったり、コトを起こしていくことができることだと思うんです。これからは広告に限らず、いろいろな分野で企画を起こしていくプロデューサーになりたいと思っています。映像でも、イベントでも、この肩書があれば、自分の発案ひとつでできるから。プロデューサーというのはとても多様な仕事です。

石田

メルボルンでの撮影の最終日、みんなで集合写真を撮ったじゃないですか。その集合から小林さんが走り出てきて、フィルムカメラでちょこちょこ写真を撮り始めたんですよね。みんなから「なんでお前が撮ってるんだよ」と言われて、わちゃわちゃーっとした瞬間があって。それってみんなが小林さんをわかっているから。 大人数の撮影だと何の役職だかわからない人がたくさんいたり、名前はわかっても話したことのない人もいたりする。でも小林さんはみんなが知っている人だから、コミュニケーションをとってきたからあの笑顔になるんですよね。そのときのみんながものすごい笑顔だったんです。 写真は誰が撮るかがとても重要です。誰が撮るかによって表情が変わるから。撮らない仕事の人が撮っているおもしろみと、かつ“小林さんが撮っている”からのみんなの笑顔。見ていて、いいなあと感じました。

小林

プロデューサーは先頭にいて、空気感をつくる立場じゃないですか。チームを一つにするために、緊張感をもたせることも、逆に和ませることも大切なスキルと思っていて。それは自分の采配でやっていかなければいけないのだけれど、なかなか難しいです。(笑)ただ、僕は和やかなほうが好みではあります。

石田さんが先ほど「このチームでならまたできるかも」とおっしゃった理由がわかった気がします。 本日はありがとうございました。

石田 真澄

写真家 1998年生まれ。

さまざまな雑誌媒体、ドラマや映画のスチール撮影等で幅広く活躍中。大塚製薬「ポカリスエット」、ソフトバンクなどの広告撮影も。

小林 祐介

Spoonプロデューサー 1987年生まれ。

大塚製薬 ポカリスエット『青が舞う』篇、『でも君が見えた』篇等のTVCMやNETFLIXオリジナルドキュメンタリーシリーズ『ARASHI's Diary -Voyage-』、WimWenders監督映画『PERFECT DAYS』まで幅広く制作。

前の対談へ一覧へ次の対談へ