Spoon.対談
Spoon.対談
作家と作家が交わって生まれた1+1=100の風景

貼り絵や切り絵、ドローイングなどを駆使したアニメーションを制作する映像作家の土屋萌児さんと、紙を素材とした人形操演によるアニメーションやビジュアルを制作するアーティストの北田正太郎さん。馬場智章「PRIME」のMV制作でタッグを組んだ両者に小松圭介プロデューサーを交えて鼎談を実施しました。制作工程が全く異なるふたりの作家は、どのようにして共作を進めたのでしょうか。その舞台裏から、映像制作の醍醐味が見えてきます。

「こうした試みを日本でやっている人がいるんだ」という希望

「PRIME」は映像としての革新性と楽曲との一体感に驚きましたが、まず御三方が交わることになった経緯を教えてください。

小松

土屋さんとはこれ以前の2022年に、ポカリスエットのWebCM「スカフィンのうた」でご一緒してたんですよね。もともと土屋さんを知ったのはTempalayの「あびばのんのん」というMVで。あの映像を観たときに感動して、クレジットから土屋さんの仕事だとわかってすぐにメールしました。

土屋

僕は遠くの島に住んでるんですぐには会えなかったですけど、メールをもらった日にリモートで話しましたよね。

小松

その日でしたよね。土屋さんはその時はまだ広告の仕事はしてないって話をしていたのと、「あびばのんのん」のストーリーとかアニメーション制作ってどうやったんですか?っていう話をいろいろ聞いた覚えがあります。あのMVってアニメーションも当然すばらしいのですが、ストーリーがとにかく素敵だなと感動したんです。脚本は誰が考えたのか?このカットはどうやって作ったのか?など土屋さんから根堀り葉掘り聞きました。監督を務めたOSRINさんにもすぐに会いに行って思いを伝えたんですけど、その結果同じメンバーで「スカフィンのうた」を作れることになって。幸せな仕事でした。

土屋

広告はやったことがないけど頼んでもらえたのはうれしかったし、この企画がリユースできる瓶製品の促進動画だったので、その理念にも共感できたんですよね。実際にCMづくりに携わってみて、普段は個人制作がほとんどなのもあって制作者のみんなでものをつくることの楽しさを真正面から感じた体験でした。クライアントと僕たちの間に小松さんが入ってくれていたので、意思疎通しやすかったのもよかったです。

その映像を北田さんが見て、Spoonの問い合わせフォームに連絡をしたとか。

北田

そうなんです。見たことのない映像と音楽で、どういう人たちが関わっているのかすごく気になったんですよね。紙を使ったアニメーションは見たことがあったんですけどクオリティが尋常じゃなくて、こういう試みを日本でやっている人たちがいるんだっていうのがうれしくて。それでSpoonの名前が見えたので、とりあえずここに連絡してみようと。

小松

普段はこうしたメールって埋もれちゃうので返信できることは少ないんですけど、北田さんは丁寧なご挨拶と「スカフィンのうた」への感想が書かれていたので目に留まって。総務からメールが転送されてきてから10分後には返信してましたね(笑)。何より、北田さんの作品を見たときに、この人のセンスめっちゃ好きだなって思ったんですよ。

北田

うれしいですね。

小松

いつかご一緒できたらうれしいですっていう話を北田さんに返して、そこから「PRIME」までは半年くらい空いたんですけど。

孕む狂気は似ている、しかし制作工程は全く違うふたり

「PRIME」ではどういう流れで土屋さんと北田さんが参加することに?

小松

元Spoon社員でフォトグラファーのツジモトケイスケさんから、「知り合いの馬場(智章)さんの新しい曲があるんだけど映像つくれない?」っていう相談を受けて。聴かせてもらったら、現代ジャズの即興性というか、実験的で熱量のあるすごくかっこいい曲だなと思ったんですよね。加えて、一個一個の音の連なりが、土屋さんの映像に合っていると感じた。それで「こういう曲があるんですけど、また一緒にやりませんか?」と土屋さんに相談して。でもその時、すごく忙しかったんですよね。

土屋

そうでした。

小松

納期も2、3ヶ月後みたいな状況だったので、どうしようかと。そこから土屋さんがとりあえずストーリーを考えてみますっていうふうに言ってくれて、上がってきたのがあの完成形の世界観でした。ただ、どう考えても土屋さんひとりでは間に合わないということになって。せっかくならCGのクリエイターとか他の人と共作してみますか、といった話をしているときに思い出したのが北田さんの作品だったんです。土屋さんが考えたストーリーボードの雰囲気に、北田さんの立体造形が合うと思った。両者に秘める狂気みたいなところも、うまく交わってくれるのではないかと。

土屋

紹介していただいてInstagramのリールを観たときに、「おおこれはすごく面白い!」と思って。この作品の世界観にもぴったしだなって。 オンラインミーティングをして話を聞いてみたら、人形をコマ撮りしてアニメーションに見せているのではなく、テグスを使って操演しながらワンシーンずつつくっているのがわかって。一つひとつのシーンにライブアクション的な仕掛けが盛り込まれているんですよね。一方で僕がつくっているアニメーションはコマ撮りのものなので、北田さんのライブアクションとはつくり方がそもそも異なるから、どう組み合わせようってすごく模索しながら進めましたよね。

北田

4分にも及ぶ動画はつくったことがなかったし、土屋さんと一緒にできるっていうのはめちゃくちゃありがたいお話でした。ただおっしゃるように、お互いアナログなつくり方なのでビジュアルは似てるんですけど、撮り方がまったく違うので工程の想像はできなかったですね。

小松

たしかに僕も、ふたりと一緒にやりましょうと言ったは良いものの、土屋さんは一枚一枚コマ撮りの写真で、北田さんはiPhoneの動画で、制作方法もまったく違うし、それぞれの狂気と個性があるなかでちゃんと成立するのか?二人の個性に制限をかけてしまうのではないか?という不安はありました。あと、納期に間に合うことを目標にふたりでやればそれぞれ半分ずつの作業量で完成すると思っていたのですが、結果的には倍の時間と作業量を要したという……。

時間の制約をなんとか拡張しつつ。

小松

お互いがものすごい密度で取り組んでいたのでそれだけ時間がかかったのですが、馬場さんにもレコード会社にもご理解をいただけました…… 出来上がったものをみんなで見たときに「音楽が先なのか、映像が先にあったのかまったく分からなくなる」と言ってもらえたときは嬉しかったですね。とにかく大好きな作品です。

現代ジャズの楽曲に呼応する、即興と直感による創作

ざっくりおふたりの役割を分けると「土屋さんは切り絵や貼り絵(平面)」「北田さんは人形(立体)」ということになると思いますが、映像を見ているとかなり混じり合っていますよね?

土屋

そうなんですよね。本来なら立体の映像と平面の映像をそれぞれ「別の世界」として描いたら一番制作が楽だと思うんですよ。ただ今回は完全ミックスで、ランダムにお互いのパートが入れ替わっていくようにつくっているんです。だからシーンごとに役割分担しているというよりは、お互いの得意分野に応じてシーンに関わっている。その構成自体が自分としても実験的だったなと思います。

小松

制作の大まかな流れを言うと、まず土屋さんが描いたラフコンテがあって、それをもとに北田さんが主要人物ふたりのキャラクターの人形やガソリンスタンドの立体模型をつくってくれたんですよね。

土屋

そうそう。それで、そのガソリンスタンドの立体模型を撮影してもらって、その画像を一回こっちでプリントアウトして、背景の山とか空を付け加えていって一枚の切り絵にするみたいな。

なるほど。立体模型だったものが平面の絵に変化する。

北田

例えばこのガソリンスタンドはスニーカーの箱くらいのサイズ感ですけど、この縮尺で山とか町の風景を立体でつくろうとするととんでもない規模になってしまうんですよ。とてもじゃないけど部屋ではつくれない。車が山間の夜道を通り抜けていくシーンもあるのですが、あれも全部立体のボードをつくると大変なことになるので、後ろの動く森の絵は土屋さんにお願いして、手前を走るパトカーと運転手は僕がつくるっていう組み合わせをしていて。僕ひとりでは難しいことが土屋さんと組んだときに可能になったり、単純に世界が広がったりするのが、ものすごい創作の可能性を感じて感動しました。

土屋

立体模型をいろんな角度から写真撮影してもらって、その画像を共有してもらって。それをこっちでプリントアウトして切り絵と組み合わせるみたいなことを制作の中盤くらいから駆使し出して、これだったらなんでもできるんじゃないかって思ってました(笑)。

小松

「PRIME」はジャズですけど、まさしく映像もこのふたりのセッションのごとく。

北田

ほんとそんな感じでしたよね。「ここまでできました」っていうのがまとめて送られてくるんですけど、それを見るのが毎回面白かったです。こう来たんだったらこう返そうっていう、それの繰り返しで一本つくった感じですね。

世界が広がり、解像度が高まり、一つの街は出来上がった

この工程をすべてリモートで成し遂げたのがすごいですよね。

小松

しかも定期的に共有はするんだけど、ずっとリモートを繋げてるわけではなくて。北田さんが撮った画像が土屋さんによって違うカットになって生まれ変わるみたいなのは、もはやドラえもんの世界かと思いました。立体が平面になって、平面が立体になって……。

土屋

だんだん北田さんがつくった立体模型に対して、足りない要素をこっちでも簡易的に紙で半立体のものをつくってみたりとかもしましたね。サブキャラクターをどんどん増やしていったり、冒頭で瓶の栓を抜くシーンはこっちで大きいサイズの瓶をつくったり。だんだん僕の創作も立体に近づいていくのが面白かったです。 お互いのできることがわかってくるから中盤以降はどんどん自由度が高くなっていったし、相手の領域までリーチできる要素も増えていく。あとは、いつもオリジナリティを意識してつくっているなかで、自分の輪郭がどんどん曖昧になっていくのが新鮮だったし、曖昧になっても大丈夫だと思える安心感がありました。

小松

北田さんはさっき「自分がつくった世界を土屋さんが広げてくれた」っていう話をしていましたけど、ふたりの掛け合いを客観的に見ていると、土屋さんが広げた世界に対して今度は、北田さんが立体物のリアリティで解像度を高めるような面もあったと思うんですよね。「世界を広げる」→「解像度を高める」という運動が交互に繰り返されて、どんどんこの街が出来上がっていく。そして制作の後半はふたりの境界すら曖昧になって、調和していった。出来上がっていくものを見ていて快感でした

土屋

途中からみんなの頭の中で「この街」を共有して、だいたい同じことを想像できているんじゃないかっていう感覚になれてました。

北田

小松さんの提案で映像を16mmフィルムに焼いたりもしたんですけど、僕たちは予算とかあんまり意識してないなかで、基本的にやりたいことをなんでも挑戦させてくれた小松さんに感謝しかないですね……。スケジュールも最初はタイトだったと思うんですけど、長い期間をかけていいものをつくることができましたし。

土屋

スケジュールとか予算の調整って、普段の個人制作では自分でやったりするじゃないですか。

北田

そうですね。

土屋

その調整ってすごく難しい部分もあって、そっちに気を取られすぎるとだんだん作品に対して愛を感じられなくなってしまう瞬間もある。だから極力気持ちいい形で取り組ませてもらえたのはすごいありがたかったですね。

流れ作業ではない、予測不可能な制作を求めて

土屋

自分は押入れの中でひとりでものをつくるっていうことから始めて、どんどん幅広いバリエーションのものをつくれるようになってきたと思ってたんですけど、他者と関わることで生み出せるものってもっとあるんだと思わせてくれたのもうれしかったです。小松さんがその入り口になってくれた。

北田

小松さんって、「こんな面白いアーティストがいるんですよ」っておすすめしたら、次の週ぐらいには「画集買いました」って連絡してくれるんですよ。そこまで反応してくれることって珍しいと思っていて。普通はそういう話って「いいね」で終わってしまうから。

小松

面白い人が紹介してくれたならそれは見たいという気持ちになるんですよね。逆に、全く興味のない人からものを勧められてもまったく見ないです(笑)。

北田

我々がやってきた表現活動も含めて、「面白い」と認めてくれたり、反応してくれたりする人がちゃんといるんだって知れたのも心強かったです。

今後、またこの座組みで挑戦したいことはありますか?

小松

「スカフィンのうた」を見て北田さんが連絡してくれたみたいに、観た人が感動してアクションを起こしてしまうようなものをつくりたいですよね。

北田

またこのチームでぜひご一緒できたら最高だなって思います。今回の制作でいろいろ経験したのがベースにあるから、次はさらに新しいことに挑戦できると思うんですよね。

土屋

このつくり方に対して応用ができるってことがわかってきたから、もっと別の要素を入れてもいいし、それぞれが個々で動いていってキャッチボールみたいにものをつくれたらまた面白いかもしれないし。

小松

どうしても仕事ってルーティンワークになってしまうと面白くなくて。弁当にものを詰めるような仕事に停滞感を覚えているようなところもあったんですよね。でも、「スカフィンのうた」や「PRIME」では、みんなで材料を買ってきてバーベキューをするみたいに自由に可能性を広げながら仕事ができた。今までの仕事も、弁当にものを詰める流れ作業だと思っていた部分があるけど、取り組み方を変えたらよかったんだと気づかされたんです。そのマインドで今度はTV CMとかビッグバジェットのものをつくれたら幸せだなと思っています。土屋さん、北田さん、またお願いします!

土屋萌児

アニメーター兼ビジュアルアーティスト 1984年生まれ。

切り絵や貼り絵、ドローイングなどを駆使して、独創的なアイデアに満ちたアニメーション作品を制作している。Tempalay『あびばのんのん』、SAKANAMON『すっぽんぽん』などのMVのほかEテレ「シャキーン!」ではアニメシリーズ『ハッタケさん』『惑星兄弟』などを手がける。2011年から『耳なし芳一』を原作とした短編アニメ『Hoichi』を制作中。

北田正太郎

イラストレーター・アーティスト 1989年生まれ。

手作業によるクラフトと視覚的な物語性を融合させた、ユーモラスな紙立体アニメーションやビジュアルを制作。最近の仕事にIKEA『やっぱり家の日』キャンペーン、『BEAMS T』、『えいごであそぼ』など。

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小松圭介

Spoonプロデューサー 1985年生まれ。

三菱電機GIST 『Take Back What Matters』、大塚製薬ポカリスエット『スカフィンのうた』、コンコルドシリーズ、TOMOAKI BABA 「PRIME (feat. BIGYUKI & JK Kim)」など、遊び心ある映像を数多く手掛ける。 趣味はカレー作り。

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