Spoon.対談
Spoon.対談
「生活」をベースにした、広告と仕事の話をしよう

デジタルを核に、企業広告からまちづくりまで臨機応変なコミュニケーション設計を得意とし、マウントレーニア「もしも東京の真ん中に山があったら」のクリエイティブディレクションを務めているプランナー/クリエイティブディレクターの尾上永晃さん。今回は、同企画の制作を担うSpoonの田中直人プロデューサーと対談をしていただきました。おおらかなふたりの「よいクリエイティブのための」仕事術から食への偏愛(?)まで、存分にお楽しみください。

はじまりは一緒にごはん 共通の話題は『ドカベン』

まずはおふたりの出会いから振り返っていただけますか。

田中

出会いで言うと2016年になりますね。

尾上

もう10年前になりますか。

田中

当時ご一緒していた電通の方と海外ロケへ行っていたときに何気ない雑談になって。「御社のクリエイティブの領域で今後活躍しそうな方って誰でしょうね」みたいな話になったんですよ。

尾上

おお、すごい会話ですね(笑)。

田中

そしたらその方は「社内の評判では尾上さんが一番手なんじゃないかみたいな話をよく聞きます」とおっしゃって。そのときは失礼ながら尾上さんのことを存じ上げなかったので、日本に帰ったらぜひお会いしてみたいなと思ったんですよね。それから、仲良くさせていただいていたコピーライターの方が尾上さんと仕事をしていることがわかって、とんとん拍子で一度会えることになったんです。外苑前のカレー屋さんで。

尾上

そう、覚えてます。

田中

その方と尾上さんと僕と僕の先輩のプロデューサーと4人で、いろんな話をしながらお酒を飲んだっていうのが最初でしたね。

尾上

僕が覚えてるのは、『ドカベン』の話をしたっていう。

田中

そうだそうだ。

尾上

僕は『ドカベン』がすごく好きで、田中さんも元高校球児、かつ水島新司先生の漫画が好きだという話になって。

田中

『大甲子園』とか『球道くん』の話もしましたね。

尾上

『ドカベン』の話って響いてくれる人がいないんですよ(笑)。でも、この業界をめざすなら読んでおいたほうがいい。

田中

そうなんですか?

尾上

『ドカベン』で描かれる明訓高校野球部って、どんな苦境でも乗り越えてみせるじゃないですか。めちゃくちゃ強い高校だからそのままいくと優勝してしまうんだけど、大事なときに誰かが怪我したり、野球を辞めるって言い出したり、絶対にトラブルが起きる。そこからいろんな壁を乗り越えて勝っていくっていうのは、仕事そのものなのではないかと思います。

田中

仕事論につながりました(笑)。こういう話を最初の出会いではしてましたね。

大きくて優しい人たちと、東京に山をつくる

それから2度ほど仕事でご一緒したのを経てマウントレーニアの企画が動き出したとのことですが、制作会社にSpoonを選んだのはどんないきさつだったのでしょう。

尾上

マウントレーニアが発売30周年で、リブランディングするっていう話が出まして。パッケージのロゴも、これまでは丸い円の中に山が描かれていたのが、円を飛び出て山を大きくみせるようなものに変わることになったんです。その時期はちょうどコロナが明けたころで、まだ世の中には閉塞感が少し漂っているような気がしていた。そんななかで、「もしも東京の真ん中に山があったら」という企画を思いついたんです。実は、でっかい山が東京にあったらいいのになっていうのは昔から僕が思っていたことなんですけど、そのアイデアがハマるのはこれだ!っていうタイミングがきたんですよね。それで、スタッフィングも山っぽい人、山みたいにおおらかな人で固めようと思って田中さんに連絡したんです。

田中

まさに最初にお電話をいただいたときに、そういうことをおっしゃっていました。

尾上

大きくて優しい方たちに関わってほしいんですと。

田中

俺か!なんて思いましたけどね(笑)。

尾上

田中さんもまさしくそうですし、Spoon自体がそういう社風ですよね。優しく受け止めてくれる感じとか、社内にキッチンと大きなダイニングがあって、みんなでごはんを食べたりする丁寧な感じとか。そこのクラフトマンシップと優しさが今回の企画にすごく合いそうだなと。

田中

でもうちだけじゃなくて、尾上さん周りのクリエイティブの方たちも、お会いしてみるとみんなそういうおおらかさのある方々なんですよ。そこに大野大樹さんという監督が加わって。

尾上

大きいですよね、大野さんも。

田中

名前に大きいがふたつも入ってるから(笑)。その座組みでもうすぐ4年になるので、本当にありがたい限りです。

大きな山が東京の街に存在する映像やビジュアル、とてもいいですよね。

尾上

それも本当に制作の方々によくつくっていただいて。「本当にある」ってどういうことなんだろう?みたいなことはかなり考えましたね。火山学者の方に話を聞いたり。

田中

山があったら気候がこう変わるとか、人々の生活や服装はこうなるだろうとかシミュレーションの話を聞いてそのニュアンスを映像に散りばめながらつくったところがありました。

リアリティにこだわっているんですね。

尾上

そうですね。現実味のないSFチックなものとかって、特にAIの影響もありますけど割と今だと誰でもつくれるんですよね。だからそれを超えるには「本当にある感」が大事だよなって思って。マウントレーニア自体も生活に根ざした商品だったりするので、生活から飛び出しすぎないようにしなければいけないと。

田中

東京湾のあたりにマウントレーニアがポンと存在しているイメージだったんですよね。渋谷から見た風景とか、東京タワー越しに見える風景とか、方角による見え方はそれなりに意識しながらやったんですよね。

伝えたい情報や方向から、合うメディアを選ぶ

尾上

企画は僕らで練り上げて、実制作についてはほとんどお任せしていましたけど、出来上がった映像は一発目から「最高!」っていう感じでしたね。普段は上がってきた仮編集の映像にもう少し口出しすることも多いんですけど、これに関してはなかったんじゃないですかね。

田中

そうですね。すぐ終わったかもしれません。実制作については信頼を持って任せていただけた印象がありますね。

尾上

大野さんがこれまでつくってきたものも、画が大きくて完成のイメージがつきやすかったんですよね。ご本人はLAの大学で映像を学んでいたから、マウントレーニアがあるシアトルにもちょっと近いんですよ。彼が過ごした西海岸の雰囲気が、ぱっと見はわからないですけどこの映像に潜んでいる感じがするんですよね。田中さんにももちろん信頼があるし、このチームだったら大丈夫だろうというのは先にありました。

田中

それで言うと、尾上さんの企画って、企画の段階からすでに面白いんですよね。ぷっと笑えるものになっていたり、仕上がりがイメージしやすかったりする。実制作を進める過程で企画段階からまったく違うものになるケースも結構あって、それって結構難しかったりもするんです。でも尾上さんの場合は、演出で全く違うものになったりジャンプアップすることって少ないんじゃないですかね。企画の状態から「見える」ということなんですけど。

尾上

完全に変わっちゃったな、っていうのはないですね。

田中

そうですよね。尾上さんに質問したいことがあるんですけど、ご出身はCMプランナーじゃなくて、もともとデジタル広告をやられていたじゃないですか。その影響もあってか、基本的にTV CMを中心にした企画が多いこの業界の中で、ちょっと違う路線を走っていますよね。

尾上

バラエティ豊かにいろいろやっている感じがありますね。

田中

その都度メディアをうまく使い分けてらっしゃるのが尾上さんの特徴の一つかなと思うんですよね。時にはSNS上のコンテンツをつくったり、駅のサイネージとか看板広告といったOOHを主軸に置いた企画をつくったり、かたやTV CMを活用したり。そのあたりはクライアントさんの要望に応じて、この施策ならこのメディアがいいだろうといつも考えているんですかね?

尾上

そうですね。やっぱり認知だったらテレビの方がいいけど、購買広告だったらテレビじゃなくてもいいよなとか。

田中

前半の方にTV CMの企画があって、それに付随する形でOOHがあったりデジタルがあったりっていうのが基本だとすると、尾上さんの企画書は割と逆のパターンとかもあったりするんですよね。最後の方にTV CMを持ってくることもあって、それは珍しい。

尾上

何をやるにしても映像はあった方がよくて、一番情報の凝縮度が高いんですよね。ただそれを必ずしも最初に持ってくる必要はなくて、いろんな広告でドライブしてから結果的に映像で見せるとか、その企画ごとに順番が変わってくるほうがいいなと思います。

マウントレーニアの場合はどういう順番だったのでしょう。

尾上

プレゼンはOOHから入った気がしますね。山があったらこうなりますっていう東京中の写真をつくってビジュアルで見せることから始まって、その次にCMはこうなります、っていう流れだったと思います。

田中

その後はSNSの施策をコツコツと投下したり、視点の広さを感じるんですよね。

「ごはんへの興味」が地に足のついた表現につながる

田中

尾上さんは漫画に対してもそうですけど、結構趣味がマニアックですよね。

尾上

そうでもないですよ(笑)。浅瀬でやってるのが自分の恥ずかしいところで……。

田中

でも、ご自宅では冬場になると、豚バラ肉を使って干し肉をつくってらっしゃたりもするじゃないですか。Spoonは年末にベーコンを作る恒例行事があったりして、共通点もあるのかなと。

尾上

料理をする人は信頼できますよね。生活を疎かにしていないというか。マウントレーニアも、生活から離れたらいけないブランドだし。

田中

尾上さんがつくってるものって、生活者に寄り添ってる感じがものすごくあると思うんですよね。有無も言わせぬ映像表現みたいなことではなく、もっと根底の、人に寄り添っている感じが常にムードとしてある。たぶんこの性格からきているのだと思いますよ。

尾上

自分ではわからないですけど、やっぱり料理はいいですよね。若手とかと「飯は何食ってんの?」って話をすると、面倒だからずっと同じものを食べてるとか、なんとなくいつも宅配頼んでるって言う人もいるんですよ。なんとなくですが、そこには生活がなくなってないかって思う。1日に3回訪れる楽しい瞬間をそんなに適当に外注していいの?って。

田中

わかりますよ。

尾上

僕がバイブスが合うなって人は、ずっとごはんの話をしてるんですよね。実は家で簡単にピザを焼けたりするとか。これ知ってました?

田中

ほんとですか?

尾上

強力粉を置いておくと朝にはブワっと膨らんでて、適当にちぎって丸めて、手で伸ばして、フライパンで2分くらい中火で焼くんですよ。すると下側が焼けてナポリピザみたいになるから、あとは魚焼きグリルで2分くらい中火で焼くと美味いピザができるんですよ。すごくテンションが上がりますよ(笑)。

田中

そんな話を聞くと僕もすごいテンションが上がります(笑)。外食してても、これってどうやってつくるんだろうなってすぐに気になるし、似たようなものを家で実際に再現してみたりもするし。レシピ動画を見てアレンジしたりとか、楽しくてやっちゃう。

尾上

楽しいですよね。企画者は、ふとするとつくる行為と離れがちなんですけど、料理をしていると想定外のことが起きたりして面白い。

田中

飯に対しての欲求とか興味って尽きないですよね。

尾上

尽きないですよ。こうした生活の実感って広告をつくる上でも大事だと思っていて、それがないとちょっとバブルっぽくなると思うんですよ。ただ幻想を追うのではなくて もうちょっと地に足ついてる中での幻想じゃないと時代の空気にそぐわない。やっぱり生活をしてないと、人の注目を集めるだけの何かをずっとつくり続けちゃったり、人間がAIみたいなものに変わっていくんじゃないかっていうのは思うんですよね。というのは、飯が好きなことの肯定的な理由づけをしてるだけでもありますが(笑)。

田中

私もその意見には賛成です(笑)。

みんなで同じものを見て感動する、そういうものをつくりましょう

尾上

さっきのマウントレーニアの話に戻ると、映像を見たときにイメージが合致したなっていう感覚って、それまでずっと話してきたなかでバイブスが合ったからだと思っていて。基本は情報共有のプロセスが大事だと思うんですけど、ただイメージを共有するだけじゃなくて、それを支える価値観とか、それこそ食が好きとか、そういうのって大事なんですよね。価値観を共有するには一緒に飯を食うのが一番早いと思うんですけど、それってSpoonさんはよくやられてますよね。

田中

そうかもしれませんね。それは先代から受け継いできたムードが会社全体にあるんだと思います。単純に食べるのが好き、飲むのが好きっていうメンバーが集まってるだけっていうのもあるんですけど(笑)。でもやっぱり、人と人のコミュニケーションの中でつくり上げていくものだし、それの極みがクオリティにつながるものですから。

ただものをつくるんじゃなくて、そのプロセスからいいものにしようという姿勢が垣間見せます。

尾上

打ち上げが楽しい仕事はいい仕事って言いますよね。

田中

言いますね。

尾上

プロセス上に問題がないから打ち上げも楽しくなると。そういう仕事をしていきたいですよね。

田中

ぜひ、やりましょう。

尾上

前に子どもと銭湯に行って上がったあとの座敷でテレビを見ていて、その場にいたみんな同じ映像を見て声を上げていたのを目にしたときにすごいいい気分になったんですよ。

現代ではなかなかない風景ですね。

尾上

みんなが一緒のものを見て盛り上がる、そういうクリエイティブがやりたいです。

田中

広告に置き換えるとなんなんだろう……。それこそ、マウントレーニアの大きな山もそうですよね。

尾上

たしかにそうだ。僕の根底に、孤立への抵抗みたいなものがあるのかもしれません(笑)。

尾上永晃

電通 FC室 プランナー・クリエイティブディレクター。

手段を横断した臨機応変なコミュニケーション設計で、ACC、TCC、Cannes Lions、文化庁メディア芸術祭など数多くの広告賞を受賞。最近の仕事にOasis『待ってたぜ。 #lookback25』キャンペーン、2025年世界陸上『世界最大の運動会』ほか。 趣味は外で食べたものを家で再現すること。

田中直人

Spoonプロデューサー 1974年生まれ。

キユーピー、森永乳業『マウントレーニア』、大塚製薬『オロナミンC』、NTT東日本、静岡新聞など、数々のCMシリーズを手がける。 趣味はデカい肉を焼くこと。

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