Spoon.対談
Spoon.対談
信念があり働きやすいハッピーな現場を
私たちはこれからどうつくっていく?

映画『ブルーアワーにぶっ飛ばす』やドラマ『ヒヤマケンタロウの妊娠』などの監督を務める一方、さまざまな広告作品を手がけてきた箱田優子さん。2020年から金麦シリーズでともにCMづくりに取り組んでいるSpoon福井亜希子プロデューサーと対談をしていただきました。普段のふたりの空気感のままお酒を嗜みながら、ときに楽しく過去を振り返ったり、ときに真面目に「楽しい仕事現場とは」と語り合ったり。CM制作の現場ではどんなことが繰り広げられているのでしょう?

CMディレクター
関谷宗介監督の仕事を見て

福井

箱田さんとの最初のお仕事って、もう10年以上前になりますよね。たしか、金麦の地方版をやってくださって。

箱田

今調べたら、2013年ですって。

福井

13年前。

箱田

やばいやばい(笑)。

福井

箱田さんが30歳くらいのときですか。

箱田

そうですよね。

福井

でもその前に、関谷さんの還暦パーティでお会いしましたよね。それはもう19年前になります。

箱田

そんな前ですか。当時AOI Pro.の2年目だった私が、関谷さんと仕事がしたいという理由で関谷さんと接点があった別の会社へ出向していて。たしかそれが23歳とかだから。

福井

関谷さんのCM作品集を箱田さんにお渡しした記憶が。

箱田

こんなのいいんですか、ありがとうございます……みたいな(笑)。いまだに大事に持ってますけど。あのドペーペーな時代から、よくこんなにちゃんと仕事をやらせてもらってるなと思いますね。

おふたりとも、関谷さんの仕事に憧れ、ともに仕事をしてきたという共通軸があると伺いました。

箱田

そうですよね。今は私もこれだけCMの監督をさせてもらっているから思いますけど、関谷さんの現場ってすごく特殊じゃないですか?

福井

はい、進め方もかなり特殊です。それに慣れてしまうと、他の現場に行った時に全然違うので気をつけないといけないです。

何が特殊なのか、言える範囲でお聞きしたいです。

福井

まず関谷さんのコンテは、企画から大きくジャンプする時がありまして。関谷さんは商品にとって、クライアントにとって、一番は観る人にとってベストな表現とは何かを考えて描かれていて、結果誰にも真似できない表現になっているなと思います。

箱田

演出コンテの時点で他の人と全然描き方が違うんですよ。コンテって基本的に絵の横に説明のキャプションが付いてますけど、関谷さんはそのキャプションの部分が演者に対するお手紙みたいになっていて。普通だったら「机の上でこの商品を手に取る手元にフォーカス」とか書かれているとしたら、関谷さんは「あなたがこの商品を手に取るとき、どのようなことを思うのだろうか? がんばれ」みたいなことが書かれていて。「がんばれって書いてある!」って驚きました(笑)。

福井

一枚のコンテを見て感動するみたいなレベルのものですよね。

箱田

すごくシンプルな場面にも、「〇〇の小説を読んできてくれないか」みたいな内容がぶわーって書いてあって。そのコンテを見てカッケー!って思ったんですよね。

関谷さんから受け継いだ仕事で実感した凄み

箱田

岸部一徳さんが出ている『俺の屍を越えてゆけ』っていうゲームのCMを関谷さんが撮っていたんですよね。あれは1999年のゲームですけど、それから12年後にリメイク版が出るってなったときに、99年版と同じキャスト、スタッフ、ロケ地でもう一度CMを撮りましょうという話になって。関谷さんがやれないという話だったから、私に白羽の矢が立ったんです。

福井

祖父の葬式を終えた父親と息子が道を歩いているCMですよね。

箱田

そうそう。それを当時と同じカット割で撮るってことになって、ただ当時の演出コンテは見せてもらえなかったので、こういうことかな、と自分で想像して。緩やかな坂道を父と息子が歩く映像なんですけど、私は葬儀場から坂を登って帰っていってるものだと思って、そういうふうにディレクションしようとしたんですよ。そしたら当時と同じカメラマンの方が「これは坂を登って息子に見せたい景色があって、それを見て葬儀場にまた戻る話なんだよ。適当に帰り道でしゃべっているみたいな映像を、関谷さんは撮らないからね」と言われて。自分の浅はかさに気づかされて(笑)。

福井

ははは(笑)。

箱田

15秒のCMにも、そこに絶対的なロマンがあるし、文化的な豊かさとは何かみたいな、そういうものが込められているんだということをまざまざと感じたんです。その先に自分がやっていく仕事では、何がカッコいいとか、何が素敵かみたいなことをめちゃくちゃ考えるようになりました。

福井

でも、関谷さんのやられたCMのリメイクを任せられることがまずすごいし、その現場のスタッフに聞かなきゃ学べないこともいっぱいあるじゃないですか。だから箱田さんには何か導かれるようなご縁があるんですね。

箱田

よくこの業界を目指す学生さんとかに「どうしたら監督になれますか?」とか「どうしたらそんなに売れますか?」とか聞かれるんですよ。キラキラした目で(笑)。

福井

無邪気に(笑)。

箱田

どうしたら売れるかとかはわからないですけど、大きな転換期みたいなものって絶対にくるし、自分がやりたいことを方々に言っていると向こうからきっかけが降ってくることもあるんですよ。関谷さんに憧れてこの業界に入って、会いたいです!と言っていたらすぐに会えてしまったし、映画が好きだと言っていたら「自分で撮ればいいじゃん」と言われて、そりゃそうかもと思って実行に移してみたり。自分が発した言葉をちゃんと拾ってくれる人は近くにいるし「箱田さんはこういう仕事がしたいのかな」みたいなことを理解してもらえると自分が望む仕事も増えてくる。

福井

それは本当に大事だと思います。

多様な現場を経験することで自分にとっての「ハッピー」が見えてくる

2020年には箱田さんが金麦シリーズのCM監督を任されることになりました。

箱田

金麦のCMって、2007年から2019年まで檀れいさんで、あまりにもそのイメージが、関谷さんがつくり上げてきたあのイメージが強すぎるんですよね。でも、私的には夢の仕事というか。関谷さんがやっていたあの仕事を、次に私がやらせてもらえるなんて、ありがとうございます!っていう感じでした。

イメージを刷新するために苦戦したことはあったんですか?

箱田

逆に刷新するってことをあんまり考えないようにしようとは思いましたね。金麦はめちゃくちゃ高いお酒っていうわけではなく、カジュアルに手に届く範囲の幸せみたいな価値観をずっと大事にしているブランドだったので、じゃあ「手の届く範囲での幸せをどう形にするか」みたいなことにただ集中してつくることができて。そこに自我を盛り込む必要ってないと思ったんですよね。

福井

箱田さんはこれまでの金麦の文脈を踏襲しつつ、新しい時代の「幸せ」を構築してくださいました。

箱田

そもそも金麦の現場って、めちゃくちゃハッピーじゃないですか。それは金麦が今までつくり上げてきた価値観とか、ささやかな生活の豊かさみたいなものを素敵だと思っている人たちでつくっているからだと思っていて。何というか、気のいいメンツ(笑)で目指すものが近しい人たちでやる仕事は、そりゃハッピーになるわなっていう。

福井

そうですね。

箱田

福井さんの仕事って、ハッピーな仕事しかないって私は思ってるんですけど。同じスタッフでも別の座組みで仕事をすると大変なこともあるから、金麦の仕事が当たり前だと思ったらダメだよねっていう話はスタッフとよくします(笑)。別の制作会社の人によく聞かれるんですよ。「Spoonの現場はいいって聞くけど、何がいいの?」って。

福井

制作部のみんなも他の現場に行くと色々うまくいかないことが多いみたいですが、金麦ではスタッフの皆さんに温かい目で育ててもらっているからだと思います。若いうちにある程度厳しい目にあっておいたほうがいいですけど。

箱田

それはありますね。

福井さんはお仕事を始めた最初からハッピーな仕事ができていたんですか?

福井

そんなわけないですよ。

箱田

ははは(笑)。例えばなんでも「ハイ!」っていうタイプの人もいるじゃないですか。とりあえず「自分いけます、了解です!了解です!」って言うタイプの人。 でも「了解です!」タイプの人って割としんどい仕事を沢山してますよね。

福井

さっき箱田さんが言っていたことと全く同じなのですが、「私はこういう現場で仕事をしたいんだ」という理想ははっきりあった方が良くて、それをひそかに思い続けつつ、今に至ってます。

箱田

Spoonの制作部の方たちはそれが明確ですよね。「自分はこういうの作りたいんです!どうですかね!?」みたいな芯の通ったスタンスの人が多いから、監督としてはめちゃくちゃやりやすいんですよ。

福井

関わってるどのポジションの人も、「この仕事は私の仕事です」って言いたくなる仕事というのが一番いいなと思っていて。だから間違っててもいいから、自分の思いを伝えられる方がいいですよね。

箱田

そういう文化ができてるのがすごいなと思います。すごく特殊なんですけど、本来はみんなそうあってほしいんですよね。

やり残したことや苛立ちを
溜めて次の仕事にぶつける

福井

監督はやっぱり、現場の空気をつくるのがうまくてすごいなと思います。関谷さんは、企画を俳優さんに説明するときに、冒頭に必ず関係ない話をされていたのが印象的で。でもそういう何気ない会話をしながら「この俳優の魅力はここだ」っていうのを瞬時に見極めて、映像の中でも引き出されるんです。

箱田

確かに、演出ってそういう仕事なんですよね。相手によって喋り方は変わるけど、基本的に自分は結構あけすけに喋っちゃう派です。監督が何考えてるかわからない現場ほど不幸なことないじゃないですか。言葉少なげにカッコいいことをぽろりと言うみたいな演出が私はできないから、できるだけ思ってることを早めに、大きな声で伝える(笑)

福井

素晴らしいですね。

箱田

無駄話をすることでこの人はこういうものが好きなんだとか価値観が見えてくるし、意見交換をしやすい空気も生まれる。

福井

箱田さんはそういう現場の空気づくりを完璧にできていて、すごいと思います。

箱田

そう言ってもらえてよかったです……。

福井

関谷さんは現場で毎回汗びっしょりかいて取り組んでいらして、カッコいいなって思ってました。

箱田

福井さんは、そうじゃない人をピックアップしなさそう(笑)。

福井

なんだろう、自分が本当に好きな人と仕事をしたいっていう気持ちが強すぎて。

箱田

それはめっちゃわかります。

福井

みんなそうじゃないのかな?って思うんですよ。好きな人と仕事できるから自分もがんばれるし、その人のつくるものを最後まで見たいっていう気持ちがすごくあります。

箱田さんは昨年の夏に『夏の灯り』という短編映画を撮っていましたが、これは仕事とはまた違う自主企画の作品ですよね。どういうモチベーションでつくることになったのでしょうか。

箱田

そもそも私が何かを作る時は、だいたい怒ってるところが起点な気はします(笑)。挑戦しようと思ったけどなかなかやれなかったこととか、苛立ちを打破するために別の場所でやってみるかって思うことはあって。

福井

それはいいことですよね。

箱田

この短編も、もともと他の現場でご一緒する予定だった小学生の女の子との仕事の企画がなくなってしまったことがあって、じゃあ自分で撮るしかないわって思ったのが発端なんですよね。だから仕事をしているときも、何が好きで何が嫌いかっていうのはちゃんとメモっておくと、それが自分の中のストックになることもあるんですよね。

福井

どういうところにメモってるんですか?

箱田

スマホのメモに書いてますね。日々思ったこととかってすぐに忘れちゃうんですけど、メモを見返していると「私って意外とこういうのが好きだったんだ」って自分でも意識してなかった自分に気付かされる瞬間もあるんです。

福井

次回またそういう衝動で企画を思いついたときは、ぜひご連絡をお待ちしてます。

箱田

いいんですか?(笑)

福井

ほんとにそういう企画に参加したくて。

箱田

そう言ってくれるのはありがたいです……。

一番ハッピーな仕事ですよね。

福井

手弁当で。おにぎり握って。

箱田

頑張ります。ぜひお願いします。

箱田優子

映像監督 1982年生まれ。

サントリー『金麦』、新日邦『コンコルド』、JR東日本、江崎グリコ『牧場しぼり』、クボタなどのCMシリーズを手がけ、数多くの広告賞を受賞。ほか監督作品に、映画『ブルーアワーにぶっ飛ばす』、ドラマ『ヒヤマケンタロウの妊娠』『冬の終り』など。CluB_A所属。

福井亜希子

Spoonプロデューサー 1973年生まれ。

2007年以降、約20年に渡りサントリー『金麦』シリーズを手がける。ほか近作に新日邦『コンコルド』、明光義塾『サボロー』、象印マホービン『炎舞炊き』など。 趣味は夏の梅仕事。

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